STEAMBOY

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学生時代の友人達と、大友克洋監督作品「スチームボーイ」を観る為川崎の東宝シネマズへ。その内の一人はクランクアップ直前になってスタッフとして参加したらしいですが、この企画が始まったのは九年前。我々はまだ学生でした。「おー、メモリーズの次の大友作品はこれか」なんて話し合っていたのを覚えています。当時はまだPCでCGを作るようになるだなんて想像もしてしていませんでした。高価なSGI創価学会インターナショナルでは無い)製のワークステーションで制作する他も無く、今のような高機能の3DCGソフトも存在していなかった時代です。ですがさすが大友作品。緻密に描き込まれた美術は、最近の、お手軽に作られたCGアニメの及ぶ所ではありません。
 
それはそれとして、映画そのものの出来の感想となるとかなり頭をひねってしまいます。まず長い。膀胱が破裂しそうになるほど長い。いやそれは単に個人的な生理現象ですが、脚本が冗長であまり練られているようには思えませんでした。キャッチコピーは「僕は、未来を、あきらめない。」らしいですが、主人公の少年は科学者である父と祖父の大喧嘩にひたすら振り回されるだけで、能動的に動くシーンがほとんど無い。その二人の個性が強烈過ぎて、影が薄くなっている印象です。またいい加減なコピーを・・・と思いましたが、アップルシードの「戦いが終わったら、母になりたい。」という大嘘に比べたらまだマシかもしれません。そして主人公レイに引っ付いて喚きまくっているヒロインのスカーレットも最初から最後までボケ担当(?)で、どんな理由でそんなにレイに執着していたのかも描かれずじまい。二人の間に恋愛感情は微塵も感じられず、レイがスカーレットの心に入り込んだという描写も全く無し。世界各国に兵器を売って成り上がった財閥の娘が、その自分達の兵器で死んだ兵士を目の当たりにして何かしら反応があるかと思いきや「金儲けし過ぎよ!人がたくさん死んでるじゃない」って。いやここで突然博愛精神に目覚めても萎えるばかりだし、大友キャラらしいと言えばそうなのですが、全く感情移入が出来ません。このコの存在意義って何でしょうね?
 
科学の進歩を崇拝しそれが兵器に使われようと一顧だにしない父と、人類を苦しめる結果をもたらすような科学は唾棄すべきものだと主張する祖父の争いは、わりと普遍的なテーマだと思います。そのくせ劇中では戦争も起こり、ロンドンを巻き込む破壊の中では何百人もの人間が死んでいるはずですが、その描写は良い意味ではサラリと、悪い言い方をするなら軽薄な印象を覚えます。そもそもスチーム城って何の為に動き、一体どこに行こうとしてたんですかね?
 
ざっくりとした全体的な感想としては、大友版ラピュタ×もののけ姫といったとこでしょうか。ところでスカーレットのペットのコロンブス(チワワ犬)は一体どうやってあの崩壊するスチーム城から逃げ出したんでしょうかね?スチームボーイで一番未来を諦めなかったのは、実はこのチワワだったのかもしれません。
 
余談ですが、企画当初から動く城(笑)とチワワは存在していたらしいので、この二つは決してパクリではないそうです。