「THE FOG OF WAR/フォッグ・オブ・ウォー」

http://www.sonypictures.jp/movies/fogofwar/index.html
副題の「マクナマラ元米国防長官の告白」とある通り、WWⅡからベトナムに至るまでアメリカが体験した戦争と共に歩んできたマクナマラ元米国防長官が、監督のインタビューに答える形で出来上がった映画。第76回アカデミーの最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しているのにも関わらず、日本ではヴァージンシネマズ六本木ヒルズ東宝シネマズ)で9月11日に上映を開始したが、現在では未だ単館上映の扱い。カンヌを取った「華氏911」に食われちゃってる格好である。
 
で、観終わって、正直思った。「どうしてイラク戦争反対、ブッシュ叩きをしたいアカ・コヴァ連中はシロートの作った駄作の『華氏911』ばっか持ち上げて、この映画には冷淡なワケ?」と。構成も、観客を飽きさせない演出も、マクナマラというそれ自身が立ちまくってる主演キャラの存在も、その裏に巧妙に隠されたイラク戦争とブッシュ批判も、「華氏911」よりずっと上等。まあ、実際はサヨクが都合良く利用出来るほど簡単なテーマじゃないし、この映画を観たからといって単純にブッシュを負かす世論を作り上げる事は無理だろうけどね。世界のNo.1に君臨する国の中枢に立つ人間の責任の重みとその苦悩は、ただ反ブッシュ・反米を喚くだけの連中には到底理解出来ない性格のものだからだ。
 
ただやはり、映画全体としてはおとなしめ。良く言えば丁寧で計算し尽くされた優等生の作品、悪く言えば「華氏911」のような毒の欠けた、ハラハラドキドキ感の足りない映画。といったとこでしょうか。だが、やはり一人の日本人として、マクナマラが戦術立案した「東京大空襲」を自身がどう振り返っているかの言及に対しては惹き込まれるものがあった。しかしマクナマラはその政策を後悔するも、決して軽々しく謝罪などはしない。日本人の立場としては非常に腹の立つ態度かもしれない。だが、国家指導者(原爆を投下したトルーマンも含む)とはそういったものだ。その意味では“鬼畜ルメイ”が東京大空襲作戦後に述べた「戦争とはそういうものだ」という言葉と大差無いのだろう。ある種の人間の本質に対する諦念、現実を見つめる冷静さ、祖国への忠誠心、同志への愛情・・・・・・それを全て呑み込んだ上で無ければ、この映画の「マクナマラ元国防長官に学ぶ11の教訓」を結局は都合が良い所をツマミ食いするだけで、生かす事は不可能となってしまうだろう。
 
ただ、このマクナマラのおっさん、ケネディを美化し過ぎだわなぁ。