人権擁護法案と油濁法 〜この二つの法案に賛成する人々に共通した病理 その3

(id:kikori2660:20050708#p2)
(id:kikori2660:20050712#p1)の続きです。
前述の松原議員の国会質問でも分かる通り、油濁法は見事ザル法となってしまった。拉致問題解決に奔走する救う会も、この極めてずさんな、船主責任保険(PI保険)の審査と、最終的に北朝鮮船舶への寄航許可を国交省海事局が出すまでの経緯に疑義を抱いている。
 
北朝鮮船舶に対する国交省のずさんな保険審査について
(http://www.sukuukai.jp/houkoku/log/200505/20050518-2.htm)

なお、外務省の調査は国交省側が審査終了後に同社への疑念が広まったのを受け審査の正当さを補強するべく急遽依頼したのだが、逆の結果が出た。
 
ニュージーランドの新聞「The Press」が3月4日に外務省の調査について詳しく報じている。そこでニュージーランド保険会社幹部は、「(同社は)外国で活動しておりニュージーランドの評判が落ちる」等と語っている。
 
国交省内部でも、「国際的詐欺師と北朝鮮が組んで改正油濁法をザル法にしようとしている」という評価がある。
 
MMIAニュージーランドは2004年6月に設立されたことなどから、北朝鮮が改正油濁法施行をにらみポール・ランキンに接触して作らせた保険会社ではないかという見方もある。
 
なぜ、国交省海事局がこのようなずさんな審査をしたのかは不明だが、「永田町から速くせよという風が吹いていた」と話す関係者有り。なおランキンは今年1月、日本人弁護士を連れて海事局を訪問している。
 
万景峰他1隻はバミューダ登記の保険会社SEPIAと契約し国交省審査を通ったが、同社はポール・ランキンの娘婿の会社であるとの情報もある。

“ポール・ランキン”はもちろんの事、この“日本人弁護士”も臭過ぎる。それと同等に怪しいのが“永田町”の関与。決して表には漏れぬだろうが、この決定には官邸や国交相の圧力があったと考えるのが妥当であろう。
 
さて、今からおよそ半年ほど前ですか、この油濁法(改正船舶油濁損害賠償保障法)についての話題がネット上(主に2ch)で盛り上がり、「これぞ形を変えた経済制裁だ!」「さすが狸の小泉総理!」と絶賛する人々が急増しました。その興奮(?)を伝える、分かり易い、まとめサイトを紹介しようか。
◆「船舶油濁損害賠償保障法のまとめ」
(http://yasz.hp.infoseek.co.jp/log2/yudaku.htm)

・来年3月から日本に入港する100トン以上のすべての船に適用。
・(難破・海難事故に遭った場合の)油漏れに関する保険がない船は日本に入港できない。
・現時点で保険をかけていない北朝鮮船は日本に入港する北朝鮮船の98%。
・船級という被保険船に対する格付けを貰わないと、この保険はかけられない。
・船級を与えられるのは英国法に基づいて認定された会員国準会員国のみ
・韓国や中国も他国に船級を与える事はできるのだが、瑕疵(不備により条件を満たさないなど)を知りながら恣意的に与えると、船級与える協会から即日追放に。最低でも50年は復帰できない。
・そもそも、艦齢が15年とか30年以内でないと船級もらえない場合があるので、老朽船の多い北の船の90%以上は、まず絶望的。
・北が政治的圧力を掛けても、被保険の条件に関する部分はすでに英国法の運用にだけ任されたので、日本の官庁は関知しないし官庁をたらいまわしにされるだけ。
・諦めて外貨を吐き出して船級の取得できる船を新造・購入しない限り、日本には入れない。日本が経済制裁しなくても自動的に制裁発動。

現状から鑑みれば、これらの期待は甘過ぎたというか、もう爆笑ものなんだけど。これをまとめた管理人も今頃は、自分の読みの浅さを自覚して赤面し、頭を抱えている事でしょう。まともな神経なら。ちなみにこのまとめサイトの親ページはかの「小泉総理は運が強すぎる 〜小泉超ラッキー伝説〜」です。この管理人氏には「自分を見失った発言もまた、ミラーまで作られて残ってしまうのがネットをおもしろいところでもあります。あなたが、1年後、5年後に、自分の発言を慌てて消し去ろうとするようなことがないことをお祈り申し上げます。」(id:kikori2660:20041209#c)などと言われたものですが、どうやら一年も待つ必要は無かったようで。逆の意味でね!(苦笑)。
 
そう言えば、こんな間抜けな事を言っているブロガーがいましたよ。
◆Irregular Expression「小泉純一郎に騙されるな!」
(http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/200412111222.html)

自民党「対北朝鮮経済制裁シミュレーション・チーム」が作った対共和国への段階的経済制裁案を見て欲しい

北朝鮮 段階的経済制裁
第1段階「食糧や医療支援など、人道支援の凍結・延期」
第2段階「日本から北へ運ぶすべての手荷物や物資、送金に報告義務を課す」
第3段階「貿易や送金の部分停止を実施」
第4段階「貿易、送金を全面停止。北の貨客船『万景峰92』号など特定船舶の入港を禁止」
第5段階「漁船などを含むすべての船舶の入港を禁止。日朝間のモノ、カネ、ヒトの流れを完全に遮断」

(略)
第3段階に至っては、共和国側との交渉もちゃんと進んでいない2004年2月の段階で既に「一般船舶油濁損害賠償保障法」の改正を閣議決定し2005年3月1日から共和国を狙い撃ちするかのように90%以上の北朝鮮民共和国籍船舶の入港を合法的に禁じることで対共和国貿易の部分停止に繋げる事を断りも無く進めている

と言い、まるで小泉首相北朝鮮に対する経済制裁を着々と進めているかのような印象操作を行っていた。少し前にTVタックルに登場した青山繁晴氏も「自民党経済制裁シミュレーション・チームは、この油濁法で“実質、経済制裁レベル4だ!”と言っていたはずだが、その話は一体どこへ行ってしまったのか」と嘆いていたね。しかし自分の間抜けさっぷりを恥じ、反省するならまだしも、開き直ってこんなわけの分からない政権擁護をする人まで登場しました。
◆バーチャルネット思想アイドルやえ十四歳「経済制裁の責任」
(http://www.amaochi.com/yae_log071.html)

例えば、結構前に油濁法の改正によって一部北の船を閉め出したワケですが、これも実質的には経済制裁そのものだと言えます。しかし政府としてはここで経済制裁というカードを使ったコトにするのは全く得策ではないですから、表面的には「これは経済制裁ではない」と言い続けました。
やはりこれはインパクトの問題なんですね。残念ながら、これを日本国民の中にも日本政府の“ウソ”を真に受けてしまって、結果的には北を利するような言動しか取れなかった人がいっぱいいたのですが、これから見ても、段階的な経済制裁はほとんど意味をなさないのではないかと思われます。そもそも「段階的な経済制裁」はすでに発動されているのですが、国民の大部分は理解していませんしね。

と言い、この日記から最終的に「小泉純一郎に騙されるな!」にリンクが貼られてる(笑)。まるで政府の釤深謀遠慮”を読み取れなかった国民が悪いかのようだ。つーか、ただの保険の強制加入が経済制裁になるんだという思い込みそのものが間違っている事にすら気付いていない。この後に及んでも。呆れるね。しかも自分のお仲間達が「真綿で首をじわじわと締めるような圧力を掛ける小泉さんは、外交上手だ!」と喚いていたのをご存知無いようです。
 
日記内で何度も紹介した通り、この油濁法の効果というのは、本質的に2年前に国交省が行ったPSC(ポート・ステート・コントロール。船内設備の検査)とさほど変わり無かった。拉致被害者を返そうとしない犯罪国家への断固たる処断ではなく、単なる嫌がらせのレベルに留まるものだった。救う会が表明したように「PSCも結局は、国民世論へ向けてのアリバイ作りであって、安全管理をすれば『どうぞおいでください』という北朝鮮へのメッセージと考えられる。」と全く同じ状況というわけだ。いや、むしろ不法なペーパーカンパニーの存在を黙認し、海事局に寄航許可を与える圧力を掛けた今回の措置の方がずっと性質が悪い。
 
しかしその当時、自分の知る限り、その問題性に気付き指摘していた人達というのはごくわずかであった。多くのネット住人は「小泉のしたたか外交」とやらにしたたかに酔っていたのだ。過去の事例に少しでも学べば、こんな事にはならなかったはずだ。
 
何故、彼らがそんな錯誤を起こしたかを考える必要がある。