おかしな郵政解散擁護論

先日も述べた通り、ここ最近になるまで小泉支持者が積極的に「郵政民営化」問題について発言しているのを聞いた事はありませんでした。が、あの解散が決まった途端、「小さな政府」「公務員削減」を声高に主張し始めてます。
◆Irregular Expression「やはりマスコミがひた隠しにする郵政解散の理由と争点」
(http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/200508091144.html)
 
「郵政解散-小泉総理記者会見全文(2005/8/8)」

私は今、国会で、郵政民営化必要無いという結論出されましたけれども、もう一度国民に聞いてみたいと思います。「本当に郵便局の仕事は国家公務員じゃなきゃ出来ないのか?」と、「民間人ではやっちゃいけないのか?」と。
 
これが出来ないでどんな公務員削減が出来るのでしょうか?
どういう行政改革出来るんでしょうか?
 
これが出来なくて「もっと大事な事が有る」、もっとも大事な事、公務員の特権を守ろうとしてるんじゃないですか?国家公務員の身分を守ろうとしてるんじゃないですか?反対勢力は?!

んで、

今回の解散の理由、選挙の争点は全てこれに集約される。そしてこれを補完するのが、コメント欄でも紹介してあった、自民党中川秀直国対委員長の↓この発言

「歳入が40兆円しかないのに支出が80兆円もある。こんな事で国が持つ訳が無い。80兆のうち40兆は公務員の給料。それを削るには公務員を減らすしかない。だから経営が優良な郵政からやる。これが出来なきゃ公務員なんか減らせるわけ無い。日本は持たない」

もし周りに「郵政民営化?良く分かんな〜い」とか言ってる人にはこの二つの発言だけでもプリントアウトして見せりゃいい。この考え方に賛同する人は自民党を応援すればいいし、反対する人即ち「大きな政府、官主導で結構、役人天国もやむを得ない」という人は民主党自民党から公認を与えられなかった守旧派に投票すればいい。

何と言うか、こんな出来の悪いプロパガンダにコロッと「おかげで良く分かっちゃった〜♪」なんて騙される人に投票されても困るんですが。
 
そのエントリーに(id:drmccoy:20050809#p4)さんがツッコミを入れてます。

この太字部分がおかしい。何のために公務員を減らすかというと、支出が80兆円の半分を占める公務員の給料を減らすためだと言う。ところが、郵便局は黒字経営なので、郵便局の職員の給料を含めてそれでまかなわれている。郵政事業に税金は投入していないのである。従って、民営化しても一切歳出の削減にはならない。
 
郵政を民営化すればたしかに公務員の数を減らすという見た目の目標は達成できるが、国家財政から人件費を削減するという点では何の貢献もないので、この点は要注意。逆に、公務員の数だけは減るから、何か改革がなされたかのような錯覚をおこす事になり、逆効果だと思う。

ご指摘の通り郵便事業は黒字であり、税金も投入されておらず、中山議員自身が述べてるように経営は優良である。なのに、その優良な所を民営化すると言う。
 
ちょっと待て。
 
そもそも、かつての国鉄のように赤字体質の組織を改め、スリム化してその体質から脱却する為に、民営化が必要だと言うのなら分かる。しかし“黒字だからこそ、まずそこから構造改革、リストラを始めるきっかけ”にされるんじゃ、頑張っている(実際どうかは別として)役人はたまったもんじゃない。id:drmccoyさんがコメント欄で言うように、

おっしゃる通り論点が違いますね。論点を変えているのはgoriさんの書き方であって、それを指摘したつもりでした。「黒字の事業すら民営化できないようでは赤字の部分はもっとできない」この論理はおかしくないでしょうか?では、黒字の事業が民営化できれば赤字の部分はできるんですか?相関関係は無いと思いますよ。これこそ論点をそらす言い方だと思います。黒字の部分はそのままで、赤字の部分だけ切り離したほうが良いと考えるのが普通だと思うんですが。素朴な疑問として。

まさにその通り。だいたい、郵政民営化が成功すれば道路公団の改革もうまくいく、そんな理屈はどこにもありません。小泉やその支持者達は「小さな政府」とやらを目指しているらしいですが、「民営化=官から民へ」というのは本来、あくまで組織の運営論として効率を上げる為に導入するものであるはずです。しかしながら、同じコメント欄でこう述べる人がいます。

国の事業をなるべく小さくするために、黒字事業を民営化することは、おかしくないのではないでしょうか。
(略)
また、すぐに国が口を出す体質も改めたほうが良いと思っていますので基本的には小さな政府のほうに賛成です。財政赤字でも。

こういう論理にまでなってくると、財政赤字の解消の為の民営化という“手段”がいつの間にか“目的”そのものにすり替ってしまいます。こうした論が怪しからんと思うのは「まず民営化ありき」という思考停止が見え隠れしてしているからですね。だから、小泉支持者達もそれをある程度自覚していたからこそ、今回の解散に至るまで沈黙をしていたのだと思います。
 
「小さな政府」というのは少なくともイコール国家の主権委譲ではないはずです。ましてや「民=善、官=悪」の二元論でもないはず。とにかく国が事業から手を引かねばならない、その後どうなろうと全く関与しないのが最善、というのでは「市場万能主義」ですらなく、単なるアナーキズムです。そこでまた「地方分権」というフレーズもよく耳にするんだけど、どうも日本で語られるそれは、中央集権制度からの脱却と言うよりは、マルキストの「国家統制からの独立」といったサヨク臭がプンプン漂ってくる。小泉はどうも日本独特の社会主義的政治制度から、アメリカ型の国家を目指してる感が強いのですが、私は「やっぱり日本には日本に適した政治制度があるんじゃないの?」と思うわけです。アメリカの共和党政権が「小さな政府」を標榜出来たりするのは、州単位の確立された独立の気風があり、同時にキリスト教という共通の歴史的バックボーンがあるからで、それをそのまま日本に持ち込んでもうまくいかんだろ、という感想を持ってます。だからね、しっかりとしたね、国家観も持っていない政治家が地方分権!と叫んでも説得力が無い。「戦後六十年決議」とかいう、過去の祖国を誹謗する決議に賛成している連中、戦後民主主義に毒されている奴らなんて信用出来るわけが無いんだ(小泉はその最たるもの)。だからこんな背骨の無い議員より、自民と民主のごく一部の戦後六十年決議に反対した議員、拉致議連に所属している先生方の当選を祈らなきゃいかんね。祖国愛も持ち合わせていない連中同士の闘い、そんな下らない権力争いに巻き込まれちゃいけないんだよ、今度の選挙は。
 
おっと話が飛んだ。で、「大きな政府だと官の権力が腐敗を起こして弊害化してしまう、だから国の事業を民営化していく小さな政府こそ正義だ!」と言わんばかりの論調を見るとオイオイと思うわけです。まあこのテの人達は小さな政府が、ってより小泉の言う事為す事が、と入れ替えても良いんじゃないかと(笑)。
 
でも、小泉もその反対派もおかしい所は、この民営化問題って「田舎の郵便局が無くなると困る人が〜」って話じゃ無くて、ぶっちゃけ400兆円もある郵貯を誰がどうやって管理していくの?という問題なんでしょ、実は。それが論点になっていない所がおかしい。「その金を市場に流せや、経済を流動化させんかい」とかアメリカに命令されてそれを忠実に実行して持ち株会社がうんたらかんたらで、自分の血の巡りの悪い頭ではよく分からなくなってきちゃうんだけど。そんじゃそれは民ならうまく行くんかい、と問えばそうでもなくて、現に銀行の不良債権問題が起こったわけで。結局、その解消の為に税金を投入して債権の回収の為に貸し出しを渋っているわけでしょ。民であり、貸し付けのプロである銀行がその有り様なのに、親方日の丸の役所の人間がちゃんと審査なんて出来るのかよ、ってすごく単純に思うわけだな。先週のサンデープロジェクトを見てたら、小泉シンパのコメンテーターが「小泉・竹中改革(不良債権処理)で景気は回復した!」と亀井を責めていたが、経済にはトンと疎い自分でも嘘だって分かる。そんな貸し出しを渋って、金の流れを締め付けて景気が回復するわけねーじゃん。「景気は踊り場から脱した」とか言うけど、いっつもこんな微妙な表現なのな。本当に回復してたとしても竹中の功績じゃなかろう。
 
そもそも、郵政事業を民営化すると民業を圧迫する、なんて話はどこへ行ったのかね。国鉄からJRへ、というのは私鉄との関係を考慮すると、ある程度棲み分けが出来ていたんじゃないかと思うんだが、クロネコヤマトは郵パックによってローソンからはじき出された格好だよね。クロネコヤマトだって立派な“民”だろ?違うの?
 
一応断っておくと、別に「役人の無駄遣いを減らそう」という意見に反対してるわけじゃない。でも小泉が好きというだけで、やる事為す事全て後付けで弁護して、絶賛するのは健全じゃないよね、と言いたい。いるでしょ。「終戦記念日靖国参拝しないというのも一つのカードだ」とか「村山談話を引用して謝罪するのも高等な外交戦術だ」とか「油濁法は経済制裁の一種」とか言ってる人達。全部見事に共通している。
 
国民の役人の怠惰に対する怒りは十分出来る。でもその対象は、ろくすっぽ仕事もしないで高給を貰っている地方公務員だったり、天下りをする官僚とかであって、郵便局員じゃないよね。知り合いに局員がいるけども話を聞く限りだと、むしろ警察のような固めの組織でしかもノルマが色々あって厳しい雰囲気すら漂わせてる。なのに、全て“公務員”と一括にして断罪する手法は、反日で国をまとめようとする中共のようなやり口だ。今回の解散で小泉内閣の支持率が8ポイント上昇したというが、小泉の政策というより、その“敵”を設定して戦うその姿が受けたのだね。この「受けた」ってのは、お笑いが受けた、というのと大して変わらんよ。
 
まあ、こんな感じでごく最近、仲間内で郵政民営化について語り合ったわけなんだけど。その内の一人が言った事で印象に残っているのは「要はそれ(小泉の郵政改革)が受けているのは、あの役人め、俺達がこんなに苦しんでいるのに良い生活しやがって!という妬みが根底にあるんだよ」という意見。確かに、この現象は“ルサンチマン”だ。そうとしか言い様が無い。そうやって小泉は国民の支持を受け、今までやってきた。これからもそうするのだろう。
 
 
あ、goriさんの新エントリーだ。なになに・・・
◆「民主党郵政民営化から逃げるな!」
(http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/200508102123.html)

紹介したエントリーに書いてあるとおり、国家財政の危機を回避するには増税により税収を増やし、小さな政府にして支出を減らす以外に無い(原文では「サービスを減らす」と書いてあるが語感がネガティブなのでここでは「小さな政府」と言い換えます)、

・・・「小さな政府」って、増税じゃなくて減税や規制緩和で市場を喚起して税収を増やす事じゃないのか?つーかいくら小泉自民党を応援してるからって、勝手にポジティブに言い換えるなよ!そういうのを一般的に“プロパガンダ”って言うんですが。