安明進氏の証言が明らかにした日本外交の失策

◆酔夢ing Voice「元北朝鮮工作員安明進氏の歴史的証言 」
(http://nishimura-voice.seesaa.net/article/26667243.html)

安倍内閣誕生後、内閣に対策本部が設けられ、安倍首相が本部長に就任するなど、拉致問題解決に周囲の期待が高まっているが、これでは小泉内閣の時と変わっていないという批判も免れない。であるなら、現在は、安倍内閣が生みの苦しみに呻吟している状態で、いつか突破口を開いてくれると淡い期待で待つしかないということになる。もっとも、村山談話河野談話を政府見解として継承するとした安倍首相の現実路線が、拉致問題で新たな突破口を開けない縛りになっていると考えるしかない。憲法改正と9条の2項削除ができない去勢国家では、しょせん埒(らち)が明かないということなのだろうか?安明進氏が記者会見の最後に「一言どうしても申し上げたい」と、こう付け加えた。どうしても、これを安氏が言いたかったからだ。「最初から日本政府が拉致被害者を救出することを目的にしていれば、迷うことはなかった。国交正常化を目的にしたものだから、日本政府と北朝鮮政府が納得するところでやろうとしている。工作機関で働いた経験から言わせてもらうと、(現在の拉致問題の解決方法は)政治家が紙に書いて作り出したもののように感じている」

あの郵政民営化ブーム、いや小泉前総理に異議を申し立ててはならないという“タブー”もそろそろ解かれようとしているのではないか。北朝鮮における横田めぐみさんの目撃情報を証言する事によって、この拉致問題の真実を、日本国民の関心度を劇的に変えてくれた元北朝鮮工作員安明進氏には何らかの勲章を与えるべきだと思う。それはそうと彼の最後に述べた訴えは、小泉前政権の対北朝鮮政策の欺瞞を明らかにしただけではなく、その無分別な礼讃者の偽善をもはっきりさせてしまった。
 
以前からこの日記で言及していた通り、およそ24年ぶりに日本の土を踏んだ蓮池薫さんを始めとする拉致被害者は、当初は日本に帰国する予定すら無かった。外務省が配った予定表には、その最終日に「お土産の購入」という項目があったのだから。いかに当時の小泉政権北朝鮮との「国交」正常化を望んでいたか分かるだろう。要は、北朝鮮はあの五人を帰すつもりなど毛頭無く、寺越武志さん方式で「金正日将軍様のおかげで北で幸せに暮らしてます。私に会いたければそちらから来て下さい」という決着で拉致問題を片付けて賠償金をふんだくろう、という思惑だった。それを小泉政権は受け入れようとしたのだ。しかし、小泉信者は決してそれを認めようともせず、田中均審議官や福田康夫官房長官を「売国的だ」と罵倒するのみで、それを使う小泉前総理への批判を顧みる事はしなかった。それどころか、拉致の“ら”の字も無い、日本だけが一方的に莫大な経済支援を行なう為の日朝平壌宣言を締結した小泉政権に対して、きちんとした批判を加えた保守派の人間はさほど多くは無かったように思える。それどころか、二度目の訪朝でまたも屈辱的な敗北を犯し帰って来た小泉総理を家族会が批判すると、小泉信者は激しくバッシングを行なった。「拉致被害者救出の為に働いてくれた小泉さんを批判するとは何事か!家族会は思い上がるな!!」といった風情の非難には小泉信者のみならず、拉致議連に所属する自民党国会議員までもが加わったのだった。その「空気」に押された家族会は、面と向かって反論する事も憚られる雰囲気になってしまった。

  • 拉致問題に対する関心はあったが、あの家族会の小泉批判を聞いてすっかり冷めた」
  • 「家族会は、反小泉拉致議連救う会に利用されている!」
  • 「日本を改革する為に努力をし、拉致被害者の五人とその家族を取り戻したのは小泉さんだ。家族会は感謝の心を忘れている!」

これらは実際のネット上で見掛けた発言。そしてその「空気」は、本来、救出運動の支援者であった一部の人々にまで伝播し、異様な事態になっていった。北朝鮮横田めぐみさんの遺骨を称するモノを送り付け、それが真っ赤な偽物であったと判明した際、日本政府は経済制裁発動を予告したが、半年以上も何もせぬまま放置した。それに抗議すべく、家族会が官邸前に陣取り、座り込みを行なおうとした際、その一部の支援者達が反対の声を挙げた。「夏の炎天下に、老齢の方が多い家族会に座り込みをやらせるのは自殺行為だ」「座り込みは最後の手段だ、それを行なうと後が無い」と。しかし何もハンストをやるわけではないし、そもそも、それを希望したのは家族会自身なのである。そして、ネットにおける拉致救出運動サイトのリーダー的存在である「電脳補完録」までもが、サイト内で「家族会の座り込みに賛成か反対か」のアンケートを行なった。辛うじて“賛成”が“反対”を上回ったが、もし反対が多かった場合、その結果を元に家族会に意見具申するつもりだったのだろうか?その後、彼らは小泉自民党衆院選総選挙の大勝を受けると、自分達のサイトの掲示板のトップから“経済制裁を求める”主旨のバナー画像を外し「救出運動を広げる為に、経済制裁を支援者に押し付けるな。支持率の高い小泉さんに対する批判は控えよう」という小泉信者に阿る主張を繰り返すようになった。経済制裁を訴え続ける支援者というものは「俄(にわか)強硬論者」で「思考停止な人である」とし、「家族会を自分達の政治的思想に利用しているだけの人達」、という断罪までしていた。このような異様な「空気」が罷り通っていた過去をどうか皆さん、忘れては欲しくない。それは形を変えて、今も息づいているのだから。この話は次のエントリーに続きます。