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外交回想録 (中公文庫)

外交回想録 (中公文庫)

この重光葵という外交官として有能であり、戦前と戦中の軍部には傲岸不遜で思い上がった軍人が多く居た事実はそうであろうと思う。しかし、この本を読んだだけで全てを理解した気になるのも、一面的過ぎる物の考え方であろう。
 
中華民国との戦争を避ける為に奔走した体験を描くのはまあ良いとして、日本人慰留民が虐殺された済南事件について、それがどの様な事件だったのかが一切触れられておらず、幣原外交の一員としてとにかく揉め事を起こさず穏便に事を治めようとする意図が見え見えであった。また、当時の日本人の防共意識にも、意図したものか、一切触れられていないのが気になる。
 
交渉相手に対して、とてつもなく誠実な人物であったかもしれない。しかし、自分が誠実であれば、相手もそれに応えてくれる、と考えるのはナイーブ過ぎなかったか。交渉相手の相手国内における立場を慮り過ぎて、悪い結果を招いたのも、現代における日本政治の対中国政策の誤りとさほど違いが無い様に思える。