今日買った本

安倍政権を保守の立場から(ご本人は自分はいわゆる保守派ではないとおっしゃるが)、安倍総理に対して鋭く斬り込む内容で、耳が痛い人も多いはずだ。
 
その8ページ。

安倍氏は保守の中の保守だった。「真正保守」と言われ、保守の「星」として期待されていた。彼が引き受けてくれたのだからもう大丈夫だ、とみんなが思ったし、側近もそう語っていた(例えば西岡力氏は安倍さんについていけばいいのです、と言っていた)。安倍氏自身が具体的に成案があるかのごとく胸を張ってみせていた。
 けれども実際に、現実は何一つ動かなかった。担当大臣が置かれて何度か入れ替えはあったが、政権としては何もしなかったに等しい。安倍氏によって問題に目に立つ新しい具体的政策はなにひとつなかった。周知のとおり、大言壮語はあって、悲劇の犠牲者の政治的活用もあって、事件の悲劇性はいちだんに倍加された。しかし国民的規模の解放運動はその後二度と再燃することはなく、風船がしぼむように元気をなくしていった。

12ページ。

美しい国日本”というお坊ちゃん気質丸出しのスローガンを掲げて登場したこの人らしく、いわば足して二で割る式の、本人だけが合理的と思っている非現実の幻の提案である。考えてもみてほしい。もしこの案が言葉どおりに実現したら、どんなに法律的に上手に作為されても、二項と三項の整合性をめぐって、これまでの七十年と同じような不毛な憲法論議があちこちで引き起こされ、糸がからまるように出口を失い、国家の安全保障はまたまた新たな迷走の袋小路に落ち込むことになるであろう。

19ページ。

今でも保守系の集会などでは当然ながら、安倍晋三政権を評価する人が少なくなく、私が疑問や批判を口にするとキッとなってにらまれる。「お前は左翼なのか」という顔をする。左翼に苦しめられてきた長い年月が「安倍さん大好き人間」を作り出してきた。「朝日新聞」と中国と韓国が憎い。ウソで塗り固められてきたメディアが憎い。最重要のニュースを意図的に隠すテレビや大新聞が憎い。私もずっと同じ気持ちだったからよく分かる。

34ページ。

頭の中はたしかに「真正保守」なのかもしれません。だからただのイデオローグなのです。そのことが民衆に分かって、知識人・言論人には分からないというのが、最大の問題です。左翼でも保守でも、ダメなのは知識人・言論人なのです。

二〇〇七年春、ある有名な保守系の団体(日本会議)の人が靖国神社で、春の例大祭に参拝しない安倍氏について「必ず参拝してくださいますから皆さん安心してください」と観衆に呼びかけたという話があります。こういうことが、そもそもおかしい。「靖国参拝をしないとは何事か」と怒るのが保守の指導者の声でなければならないのに、どういうわけか根拠ない「期待」をし、安倍氏の頭をかわいいかわいいと撫で続けて、[第三次小泉改造内閣の]官房長官時代から三年間経ってしまったのです。もはやこれは知識人とは言えず、安倍氏のPTAです。反省していただきたい。

47ページ。

第一次安倍内閣[二〇〇六〜二〇〇七年]のころ、安倍氏は目立たぬ時期にあらかじめ靖国に行っておいて、「靖国に行ったとも行かなかったとも自分は言わない」煙幕を張り、まもなく「村山談話」「河野談話」を自分は認めると発言し、祖父の戦争犯罪まで認知してしまった。いったい安倍さんはどうなっちゃったんだろう、と保守の核心層はひどくびっくりもし、がっかりもしたことを皆さまは覚えておられるだろうか。
 これが「ブレーン」と称する5、6人の取り巻き言論人のアイデアに基づく戦略的発言であったことは後日だんだん分かってきた。こんな姑息なことはしなければよいのに、と第一次安倍内閣を歓迎していた私などは落胆したものだった。5、6人の取り巻きの名前なども、新聞その他に公表されるようになった。天下周知の事柄になった。

120ページ。

二〇一五年の「七〇年談話」についても、表立って「あれはおかしい」と声を挙げたのは私と伊藤隆氏(東大名誉教授)と中西輝政氏(京大名誉教授)と佐伯啓思氏(京大名誉教授)の四人しかいませんでした。ほかの人たちはみんな「バンザイ!」だった。

158ページ。

そもそも政治家というのは思想から見ると思想現実の手段にすぎません。政権の顔色を窺うような思想のあり方は間違っています。言論にあってはどこまでも言論が主であって、政治は従なのです。

これは国会議員でもっとも過激な右翼と呼ばれた西村眞悟の政治塾、西村塾ですらこの傾向があり、安倍政権を表立って非難する様な発言を好まない人が居る。Facebook上でも、西村眞悟安倍総理に批判的な事を述べるとそのコメント欄にはいつも「シェアします」と書き込む人達の一部が、西村の発言の真意を捻じ曲げて「だからこそ、我々は安倍総理を応援していきましょう!」と言い出す始末。この現象は保守層全てを覆う問題だ。