NHK「坂の上の雲」

このドラマにおける、伊地知幸介の虐められっぷりが酷すぎる。司馬遼太郎が書いたのはあくまで小説であって、史実ではない。二〇三高地を占拠して旅順艦隊を砲撃で破壊しても、旅順要塞を陥落させる事とは何の関係の無い話なのに。
 
実際、旅順要塞を落とすには乃木や伊地知の作戦通り、正面から攻めるしか無かったのが実情で、大量の戦死者を出さずには不可能だった。司馬が伊地知をあそこまで愚物で無能な参謀として描いたのは、自分の昭和の軍部に対する恨み辛みからでは無かったか。無能な参謀に“元亀・天正の装備”でソ連軍と戦わされた己を、旅順で死んだ兵士達に重ねたのだ。『無能な乃木将軍を祭り上げる様な風潮が、後の日本の敗北を招いたのだ!』……というストーリーが司馬にとっては必要だったのだろう。
 
乃木神社の崇敬団体、中央乃木会の桑原嶽氏が発行している「名将 乃木希典 〜司馬遼太郎の誤りを正す〜」によると、そもそも二〇三高地占領以前から、陸軍は旅順艦隊に対して砲撃を加えており、それが原因で黄海海戦が起こった。そして敗れた旅順艦隊は港内に戻り、乗組員は陸上防衛要員となっている。つまり二〇三を落とさなくても、旅順艦隊は無力化されていたというのが実情であった。