今日観た映画

◆「ヒックとドラゴン
有楽町の「丸の内ルーブル」に観に行く。現時点において、この映画を東京都内で観られる3D映画館はここだけ。しかも10時から11時半までの1回のみの上映という不遇っぷり。評価はかなり高いし、宣伝もしっかりやってる方だと思うんだけどな*1
 
以下ネタバレ。
 
いやー、正に王道の物語! 友情、親子愛、恋愛、そして少年の成長を描き切った名作だった。「トイ・ストーリー3」に負けないぐらい完璧な脚本だったと思う。これは是非、子供達にも観て貰いたい。
 
しかしあえてケチを付けるなら、悪い意味でのハリウッド色が色濃く出てるなーと思う。「アバター」「トイ・ストーリー3」しかり、“分かり易い悪の存在”を出す事によって、物語が孕む大きな問題を糊塗しているのではないか。
 
冒頭、主人公のヒック達が住むバイキングの村をドラゴン達が襲い、家畜を次々を奪っていく様子が描かれる。その生命線である家畜を守る為、ヒックの一族は伝統的にドラゴンを撃退するシステムを形成しているのだが、その中にあって、落ちこぼれだったヒックが、傷ついて空を飛べなくなったドラゴンの“トゥース”を保護する事で交流を深めていく事になる。そこで、人間とドラゴンは決して分かり合えぬ敵同士ではなく、共生する事が出来るんだよ、という提示がなされていく*2
 
しかし、ドラゴンが生きていく為にバイキングの生命線である家畜を奪う、という現実そのものは揺るぎない。この矛盾をどう解決するのか。
 
そこで、この映画は“分かり易い悪の存在”を用意するわけだ。
 
ドラゴンの巣の中心に、巨大なラスボスを鎮座させて、ドラゴン達から奪った家畜を全て献上させていた事が判明する。つまり、ドラゴンはヒックが与えられる程度の魚を食べさせれていれば十分で、家畜を必要とする悪いラスボスが全ての元凶なんですよ! というワケ。
 
……でも、それってズルくね?
 
ドラゴンの設定は製作者が好きに決める事だし、共生の美しさを訴える事もそりゃ大切だろう。でも、勧善懲悪という手法でラスボスを倒す事によって、その難しいテーマをクリアしようとするのは安直過ぎるのではないか。終盤では、バイキングの子供達を鍛える為に闘技場で監禁していたドラゴン達を開放し、いきなり心を通じ合わせる。そして子供はそのドラゴンに乗り込み、ドラゴンの巣にいるラスボスに立ち向かうわけだけど。いやちょっと待てよ、そんな簡単にうまく行くわきゃないだろ。ご都合主義にも程がある! とツッコミを入れたくなる。ほんの数分前まで人間に奴隷どころか道具にされてたドラゴンですよ?
 
70年ほど前の小説だったか。自分が育てた子鹿が成長して畑を食い荒らすようになり、自らの手で撃ち殺した少年がいたけれども。こいつを殺さなきゃ自分達が飢えて死ぬ、愛する存在を自分で始末を付ける、という悲壮感はこの映画には感じられないよね。
 
ただ、エンターテイメントという面では、そういう小難しい屁理屈は無視して、楽しければそれが正解なんだよな*3。3DCGも音楽も最高だし、上でウダウダ俺が言っている様な部分に引っ掛かる様なひねくれたヤツじゃなければ、純粋に楽しめる大傑作と言って間違いない。

*1:オードリーのCM起用はどうみても失敗だろ、と思いつつ

*2:もっとも、劇中では共生関係という言葉は出ていない。ヒックはトゥースの事を友達とは呼ばず、“ペット”と呼んでいる

*3:日本のアニメだと共生の難しさを説く為に、皆殺しにしたりコールドスリープしたり時空を分断したりするけどさ