菊と刀』 ルース・ベネディクト (ISBN:4390105000


昔は受験テスト用(国語)の題材としてよく取り上げられていた
アメリカ人女性による日本人論。
ところどころズレた解釈はあるものの、日本人の価値観、行動様式などを
綿密な調査でまとめあげた名著である。
なぜこの女性がこの研究を戦中に始め、後に一冊にまとめたかというと
自分達とは異なる日本人と民族を理解して、占領政策を円滑に行いたい
米軍の要望からであった。
戦後の日本を見れば、それがいかに成功したかがわかるだろう。
天皇に戦争責任を押し付けて混乱状態を引き起こすより、皇室伝統を保持させた
まま統治した方がうまく行くという判断は、このような弛まぬ研究成果によるものだった。
アメリカは今回のイラク戦争において、日本と同じような事をしようとしているが
ちゃんとこんな研究をしていたんだろうか。どうもそこまでやっているようには
思えないのだが。


それはそうと、この本で、日本人が感動を覚える映画のストーリーについての言及がある。
(当時の)日本の戦意高揚映画は、アメリカ人の目から見れば最高の反戦宣伝なのだという。
その多くは、ハッピーエンドでは終わらず、主人公はたいてい悲惨な結末を迎える。
しかし日本人の観衆は、登場人物が全力で傾注して”恩返し”をすればそれで満足するのだ、という指摘がされているのだ。
”公”に身を捧げる思想に対して感動を憶えるのに、東西の区別は無いのでは
とも思もわなくもないが、かなり核をついた指摘ではないか。


ラストサムライ」を観終って感動した後に、


『チクショウ。アメリカ人のクセに日本人の心の琴線を分かりきってるじゃねえか。
どうして日本の映画界はこういう作品を作れないんだ?』とまず思った。
しかしその一方で、ここまで研究され尽くされた事に対しての恐怖感をも感じた。
その時に思い出したのが、この一冊の本だった。


でもこの映画はヨーロッパ各地でも公開され、人気を博しているそうだ。
わずかな国で「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」に首位を譲っているものの
おおむね一位をキープしているらしい。
そう知ると、やはり人が感動する物語は万国共通、変わりなど無い、とも思えてくる。